「たばこ1円増税」?〜便乗値上げのカラクリ

〜「消費減でも利益増」の利権〜



     
   タバコ問題ペンくらぶ
   代表 氷 鉋 健一郎



■ 知られざる“差益”の存在   
 昨年12月12日に、2003年度の税制改正で与党三党が協議中だった、たばこと発泡酒の増税額が決まったことから、マスコミは「たばこ1本1円増税」、「発泡酒は10円」などと報じた。本紙読者もそれを信じ、値上げ分は「たばこ税」で、全部国庫に納まると信じたかも知れない。
 たばこ1本1円の「値上げ」で、1箱20本入りなら20円上がる、という意味での理解なら正しい。だが、実は財務省は1998年12月施行のたばこ特別税のときと同様、今回も増税額は1本あたり82銭、1箱20本入りでは16円40銭を増税額と試算していた。
 このような便乗値上げは、97年4月に消費税率の引き上げを理由に1箱10円値上げした際にも見られる。当時、セブンスター1箱の価格は220円だったから、2%の消費税アップ分は4円余のはずなのに価格は10円引き上げられた。    


■ 「濡手で粟」のたばこ業界    
 たばこの販売本数は微減しているとはいえ、年間3000億本台を保っている。仮りにこの数値でたばこ特別税実施後、たばこ業界に落ちる差額を試算すると年間約400 億円となる。また、その前の消費税率アップを理由に10円引き上げた際の、消費税アップ分相当額との差額5円余の総計は約820億円だから業界はここ 3年ほどの間は、以前よりも毎年少なくとも1200億円は潤ってきた。そうしたところに今回また一箱20円の値上げを来年度に行なうことに決まったから、その増税額との差額総計約400億円を加えると、値上げ後は、全部で年間1600億円という途方もない額が業界に落ちる結果となる。    
 増税はたばこの消費減が予測されるから、業界は反対する。特に増税幅が大きいと影響は大きい。当初、与党3党は1本2円〜2円50銭の値上げを提案していたから、業界が青くなるのは当然だ。そこで総力を挙げて署名活動や政治家に陳情した。その結果1円の値上げとなったが、増税のしっぱなしではなく、ちゃんとアメは与えられる仕組みになっていたのである。     
 まさに「濡手で粟」と表現できるのであり、景気低迷で苦しむ他業界から見れば、とうてい納得できるものではなかろう。

     
■ 需要減どこ吹く風−JT&ほかたばこ会社   
小売店のマージンは価格の10%程度だから、1本あたり10銭、一箱で2円程度の増収となる。だが、残りはJT(日本たばこ産業)などのたばこ会社に残る。ちなみに、『日経ビジネス』02年12月9日号の「時流超流」欄には、「JT、増税ムードでも株価堅調の不思議」「販売減でも利益増加の可能性」との見出しが付けられ、このカラクリの一部を解説していた。ちなみに、JTにはいくら落ちるか、試算した結果は次のとおりとなる。
 今回の増税と販売価格との差額は、1円−82銭=18銭。うち、消費税充当分は、1円÷1.05=0.952円→1円−0.952円=0.0476円。よって、1本あたりの消費税は4.76銭となる。この額と、小売りマージン分10銭を差し引いた残り、18銭−10銭−4.76銭=3.24銭、がタバコ会社に残る。これに年間売り上げ本数3000億本を乗じると、3.24銭×3000億本=97億2000万円。97億2000万円にJTのシェア73.6% (02年度上半期)を乗じると約72億円となる。  
 たばこ特別税のときも同じ増税幅だから、少なくともこの額が落ちた。それでは、その前の年97年4月から実施された消費税のアップを理由とする、1箱10円の値上げではどうだったのだろうか。   

 
■ 97年4月の値上げでJTは約500億円!    
1箱220円で売られていたセブンスターの消費税率は当時3%であったから、この時の1箱あたり消費税は次のように計算できる。 
 220円÷1.03=213.59円 → 220円−213.59円= 6.41円。それが消費税率5%に上がったことを理由に、230円に値上げしたわけだが、税率改正後の消費税は 230円÷1.05=219.05円 → 230円−219.05円=10.95円。よって、消費税アップ分を消費者に転嫁するには、10.95円−6.41円=4.54円の値上げでよいはずである。それなのに1箱10円値上げしたのであるから、10円−4.54円=5.46円は便乗値上げということになる。ここから小売りマージン1円を差し引くと、4.46円となる。これが1箱あたりたばこ会社に残る額となる。これは20本入りの額だから1本あたりでは、4.46円÷20本=0.223円となるので、この額に3000億本を乗じると、3000億本×0.223円=669億円。この669億円にJTのシェア73.6%を乗じると492億円となる。 
 結局JTは3回の値上げ(492億+72億+72億)により97年以前と比べて少なくとも636億円も毎年潤うことになるのである。     


■ RJR買収資金&宣伝広告費&販売促進費   
 JTは99年に米国のRJRナビスコ社の海外事業部門を78億3000万ドル(約9400億円)で買収した。買収資金は、内部留保を取り崩したほか、シティバンクなどからの借り入れで決済したと報じられている。当時日経新聞編集委員の野村裕知氏は、「経営の視点」というコラムでJTのとった現金決済の愚を憂いておられる(本紙1995年5月号から)が、上記のような伏線・カラクリが恐らく念頭になかったのではないか。実際にJTはその後順調に内部留保の厚みを回復させ、宣伝広告費と販売促進費も以下のようにジャブジャブ注ぎ込むことができたのだ。

 ●国内販売分 (単位:百万円)

年度

広告宣伝費

販売促進費

合 計

95.3.31

23,669

61,841

85,510

96.3.31

21,361

62,793

84,154

97.3.31

19,870

61,791

81,661

98.3.31

26,581

70,339

96,920

99.3.31

26,819

86,987

113,806

00.3.31

23,748

83,138

106,886

01.3.31

23,140

83,898

107,038

02.3.31

17,835

72,175

90,010

●(海外事業ほか含む 単位:百万円)

年度

広告宣伝費

販売促進費

合 計

01.3.31

48,312

162,522

210,834

02.3.31

40,201

155,295

195,496

   

■ 新聞報道は「新聞倫理綱領」違反! 
 たばこ税の引き上げを議論する場合は、1本につきいくら税金を増やすかを明らかにして議論すべきであるのに、今回も含めて、これまでは常に「1本につき何円小売価格を上げるか」という形で議論されてきた。しかし、たばこの小売価格は財務大臣の認可を受けてたばこ会社が自由に設定するものであり、増税されてもそれを企業努力で吸収し、値上げしない(さらには値下げする)こともあり得る。政治家など関係者がたばこの増税額をそれ自体論じないで増税後の小売価格を勝手に推測し、それが適当かどうか議論することはおかしいだけでなく、上に述べたように、1本1円の値上げにはJTの便乗値上げ分も含まれているのに、値上げ分はすべて税金と誤解させる点で悪質といわなけければならない。
 先般、財務省主税局に電話で問い合わせた際、新聞の「1円増税」報道をどう考えるかを質すと、即座に「あれは間違いです」との答えが返ってきた。
 タバコ問題ペンくらぶでは、事実に反する報道を行ったのであるから新聞倫理綱領違反、よって訂正記事を掲載すべきではないか、との質問状を昨年12月27日付で『朝日、毎日、読売、産経、東京』の6紙に送付したが、1月27日現在回答はない。無視されることはないと信じているのだが……。

 

 

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